2017年04月05日

「日本人の色彩感覚と伝統構法」(建築士会中部支部会誌「紫微鸞駕」への寄稿)

 今年も建築士会中部支部の会誌「紫微鸞駕」へ寄稿しました。
 総会時に配布されますが、経費の関係で写真はすべてモノクロなので、カラー写真の原稿を掲載します。

 レイアウトの関係で、一部変更して掲載します。


1、 建築の基本は「木造」にあり

 鉄筋コンクリート造が主流の沖縄。しかし、設計も施工もいきなりRCから学ぶと、いつかどこかで技術の根拠が見えなくなる時があります。それは、建築の基礎である「木造」をしっかり学んでいないからです。
工業高校や大学、専門学校でも「木造」のカリキュラムが少なく、学ぼうにも学べないのが現実です。だったら社会に入ってから学びましょう。

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【瓦の連なりと重なりが日本の伝統を醸し出す那覇市具志の伝統構法のY邸。】

 建築技術の基本は木造にあります。例えば、住宅を設計するにあたって広さをイメージするのは、木造で使われている8畳、6畳、4.5畳という空間
です。
 木造住宅の階高や軒の高さの目安は、柱の長さである4mか3mの木材の定尺で決めていきます。内法(鴨居の高さ)は2mの定尺内で決めるのが一般的です。

 いまはメートル法が当たり前ですが尺間法が裏にあって、窓の大きさはだいたい1尺(約300o)ごと、木材の縦横の寸法は1寸か5分(約30oか15o)ごとに製材されます。
 例えば、洋間の腰窓は6尺×3尺(1,800o×900o)、和室のひじ掛け窓は6尺×4尺5寸(1,800o×1,350o)、柱は4寸角(120o角)、軒桁は4寸×6寸(120o×180o)、垂木は1寸5分×2寸(45×60o)などです。
また、和室における各部材の寸法や間隔も木割り法でほぼ決まっています。
 基本は使われている柱材の寸法です。鴨居や長押(なげし)の成(せい・高さ)は柱の0.4掛けや0.8掛け、床の間の落とし掛けは鴨居より柱の約2,5倍上げて取り付けることなどです。柱が3寸5分角(105o角)であれば、鴨居や長押の寸法もそれに応じて変化します。

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【H28年度 日本建築士会連合会賞 奨励賞受賞作品。(北中城村仲順H邸)】


 このように住宅のディティール(細部)は古来より定尺や木割り法、尺間法で無駄のないように作り上げられてきました。住宅設計を目指す若い方々は是非、「木造」を学習なされてください。10倍、奥が深くなります。

2、 木造の歴史

 木造の歴史は古く森林が7割を占める日本では約4千年前から木組みが使われており、富山・桜町古墳から貫穴やエツリ穴を持つ部材が発掘されています。
 世界遺産にもなっている奈良・法隆寺五重塔は約1,300年以上も前に建てられた世界最古の木造建築です。

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【唯一神明づくりの伊勢神宮内宮。木造技術・循環システムの原点】

 三重・伊勢神宮は20年に一度の式年遷宮を繰り返し、その歴史は法隆寺と同じです。一方は「長寿」、他方は「循環」をみごとに木造の技術で今に伝えています。同じくらいの歴史でも「仏教」と「神道(しんとう)」の違いが伝え方を表しているように思います。

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【国指定重要文化財・中村家】

 沖縄で一番長く存在するRC造建築は大宜味村にある旧役場で1925年竣工(87年前)ですが、木造では北中城村にある中村家も18世紀半ばの建物なので約280年間前に建てられた住宅です。
 技術と維持管理がしっかりしていれば、木造は長持ちするという証です。普通はこのままこの勢いで技術論に進むのですが、今回はこよなく木造を愛する技術者として別の角度からみてみます。

3、 肌の色と反射率

 なぜ、これほどまで日本人が木造に親しみを持つのかというと、実は肌の色に関係しているのかもしれません。
 海外に行くとわかると思いますが、欧米人をラテン系と北欧系の民族に分けると、ラテン系は皮膚が浅黒く、目と髪の色が黒(茶)で体系はずんぐりむっくり、色彩では赤や暖色系を好み、性格は明るく外向的です。
 北欧系は一見して皮膚が白く髪が亜麻色(金髪)で目が青く、体系は背が高く長頭で色彩は青や緑を好み性格は物静かで内向的です。
 赤道に近いラテン系は可視光線の長波長の赤色視覚が発達し、北欧系は短波長(紫・青・緑)に反応する緑色視細胞が発達し、紫外線不足から目が弱い人が多いとされています。
 では日本人の色彩感覚はどうか?平均して彩度の高い純色は敬遠され、ややくすんだ色や中間色が好まれます。

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【我が家のおせち料理の食器】

 日本人の衣食住は比類のない歴史と伝統によってつちかわれてきました。衣服では能衣装をはじめ、呉服の色は華麗な振袖から地味な紬(つむぎ)まで、食においては懐石料理からおせち料理、寿司まで食器で味わいます。
 住では神社仏閣から数寄屋造りの茶室にわたって住まいに取り入れています。
 その背景には四季の変化や花鳥の美しさ、水の清らかさなどがあります。日本人の色彩感覚は「その色」を見せるための「捨て色」の使い方が上手といえます。衣食住のどの分野でも色は色相、明度、彩度を抑えています。
 例えば、茶器の渋さと帛紗(ふくさ:茶の湯で茶碗をふいたり茶器を鑑賞するときの敷物)、茶室と和服の関係です。
 そこで考えられるのが反射率。日本人の色彩感覚は反射率50%が基準であること。反射率50%といえば無彩色では障子紙、ふすま紙、漆喰など。色がつけば木綿や麻の生地、畳表、そして杉やヒノキなどの木の色。
それらは「その色」を引き立たせる「捨て色」として機能しています。極めつけは肌色そのものが反射率50%であることです。
 日本人にとってベージュ系やラクダ色が似合うのは、色相が肌色に近く、同系色の調和で抵抗なく受け入れられているからでしょう。
 日本女性の和服姿が美しく映えるのも反射率50%の肌色が反映しているのかもしれません。

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【内装の舟底天井・障子紙・ふすま紙・畳・漆喰壁も反射率50%の黄金律。Y邸】

4、 沖縄の色彩感覚と木造

 さて、沖縄の色彩感はどうでしょうか?本土より赤道に近い沖縄では赤色視覚が発達しているので、可視光線でいうと長光波の赤色・橙・黄などの暖色系が好まれ、性格も率直で外向的と考えます。
 RC造、木造に限らず赤瓦を葺くのもその表れかもしれません。外壁は一般に白色系かベージュ系。本土より日差しが強いためか昼間でも照明を点ける家庭が多く、外の強い光とのコントラストを和らげるため明度の高い内装が多いように感じます。
 つまり、日本的な色彩感覚を持つが若干亜熱帯的色彩感覚が入るように思います。

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【木材(杉・ヒノキ)は反射率約50%那覇市具志のY邸(腕木による持ち出し)】

 しかし、全体的には肌の色を基調とする反射率50%の黄金律は変わらないように思います。
 一般的に木造は温かみがあり心身にやさしく、循環型素材のため環境負荷が少ないとされます。
 ただ、沖縄ではシロアリ被害や台風、技術者・木材の不足など不安要素が先行して流布されているので普及させるには並大抵な努力では達成しません。
 しかし、こと、色彩感覚の視点から考察すると、いちがいに沖縄にふさわしくないとも言えません。外の光が強い分、やや暗く感じるかもしれませんが、昔の木造家屋を見ると、どちらかといえば夏の日差しを避けるように寝床は北側に寄せている家が見受けられますが、これは地域の知恵と考えます。
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【反射率の低い透明ガラス、フスマの縁や帯・畳のヘリ、障子の桟が、捨て色で引き立つ。那覇市具志のY邸】

 稲作が盛んだったころは、稲刈り後のワラを畳床に使いました。瓦の葺き土や土壁にも切り苆(すさ)として使いました。木材も土も地元の自然素材を使い、耐用年数が過ぎればまたもとの自然に戻しました。地元で栽培されたお米のご飯をたくさん食べ、米以外の残ったものを生かす暮らしのシステムと、住まい全体が循環システムに組み入れられていたように思います。
 先日、重要文化財になった名護市の津嘉山酒造の修復工事に行ってきました。屋根の葺き替え中でしたが、その葺き土の中には切ワラを1か月ねかせたスサが入っていました。
また、伝統構法で使うのは石、土、木、草、水などの自然素材が主な材料です。
 骨組みに金物を使用していないので解体しやすく、さらに使用材料が「多量少種」なので分別しやすくなっています。

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【土・わら(草)・竹・木・・どれも自然素材で大量少種(津嘉山酒造修復工事)】

 伝統構法に工業製品として使用する材料に「ガラス」がありますが、西洋のガラスと日本のガラスは、そもそも発想が違います。
 西洋のガラスは壁が透明になったもので、日本のガラスは明かり障子が木製のガラス窓になったもの。同じガラスでも紙の進歩と壁の進歩では大違いです。
 日本の木製ガラス窓に使われる並厚(2o)のガラスは顕微鏡実験や標本に使われるプレパラートガラスに転用できるほど薄いものです。

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【窓は西洋では壁の進歩。日本の窓は紙貼り障子から発達した。だから極薄2oのガラスが入る。(北中城村H邸】

5、 これからの住まい

 長い年月によって淘汰されてきた日本の木造技術と文化。木造以外の工法にも応用されるのは結構ですが、木材に限らず、木造で使用されている土や草は呼吸していて、いわば生きものです。木材を同一強度が前提の鉄筋コンクリート造や鉄骨造のような利用の仕方は、いただけません。
癖のある材料を見極め、適材適所に生かしていくのが技術者の力量です。
 これまでの住宅は快適便利な暮らしを求めて「少量多種」の材料で作られてきました。一方で強度を高めた材料も使われてきました。しかし、これでは、解体時分解しにくい、分別するにもコストがかかる、自然に戻る時間がかかりすぎる、再利用しにくいといった弊害があります。これからは、「頑丈だけれど解きやすい」、「自然に戻すコストと時間がかからない」という家づくりに方向転換したほうが良さそうです。その意味において、伝統構法の存在価値は大きいと思います。

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【昭和7年建築の津嘉山酒造の小屋組】

 伝統構法にあぐらをかくことなく、さらに知恵を絞って家の長寿化と分解しやすさを研究、実践していきたいと思っています。
 きっとそれが住まい手の長寿と地球環境への環境負荷低減にもつながると確信しています。
 
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【海老虹梁(えびこうりょう)と三つ斗組(みつとぐみ)を取り入れた伝統構法の住宅。(那覇市首里崎山町のI邸)】
posted by 塾長 at 08:07| 建築