2019年09月28日

何を残したいのだろう?

最近はリノベーションばやりで、過去の建築・土木の歴史的遺産を残しています。しかし、いったい何を目的に残しているのか?疑問を感じることがあります。

直接私が関わった事例について紹介します。

ひとつ目は、熊本市に編入された富合町の石井樋(いしいび:石造の樋門)です。1608年、当時の熊本の城主であった加藤清正公が造らせたとされています。

平成4年、まだ熊本在住だったころ、地元紙の熊本日日新聞社が募集した「水辺のある街提言」に石井樋を補修した後残った石井樋を中心とした親水公園化構想を提言しました。応募18点の中で最優秀賞を受賞しました。後日、新聞紙上に提言内容が発表されました。見開き2ページなので見にくいですが、貼付します。

新聞_R.JPG


【近年は「井樋橋」(いびばし)と称されいるので、以下、そう呼びます。約410年前に築造された「自動開閉の樋門」いわば「自動ドア」です。現在、タイムス住宅新聞で連載中の「細部から文化が見える」に詳細を記します。】

26年前、塩水を田に入れないために、山から流れ出る真水(アオ)との合流地点に浮力と水の比重の違いを巧みに活かした石造樋門を設け、干満の潮位に合わせて両開きの木製扉を付けています。石造とは言え、よく見ると伝統的な木組みの仕口が施されているところに着目しました。
熊本地震でこの井樋橋は壊れてしまったそうです。

井樋堰A_R.JPG


【熊本地震で壊れる前に石井樋(下流側から見る)(熊本市提供)】

地元が中心になって改修されましたが、残念ながら送られてきた完成した樋門に文化性は感じ取ることができませんでした。何を残したか!
確かに塩水を田に入れない自動開閉のシステムは残してあります。厳しい財政下にある熊本県・熊本市においては、システムを残すことでさえ大変だったことは理解できますが、もう少し関連記事の調査や建築文化、地域の歴史や自然など多面的な見方を持ち寄った改修をしてほしかったと、悔いが残ります。

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【提案書に入れた建築技術の詳細写真】

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【提案書に入れたイメージパース。上:秋、下流から雁回山を望む、下:春、上流からの鳥瞰】

05_満潮時(下流側A).jpg


【改修なった井樋橋。立派ではあるが、文化を感じない。(熊本市提供)機能は残った。しかしどこか寂しい。】

もう一つは、以前自ら改修して住んだ熊本県人吉市矢岳町(やたけまち)の旧国鉄矢岳駅駅長官舎。これは先にタイムス住宅新聞の連載で紹介しました。再掲します。

第19話4月矢岳越え(原本)_R1280.JPG


8月に旅館としてオープンしたようですが、紹介するHPを拝見すると、これまた残念ながら経済性を優先したのか、明治時代後期の建築文化はどこかへ消え去ったようです。
遠く離れた沖縄からではメンテナンスが行き届かないと、家が傷むし悲しむだろう、ということで手放しましたが、果たしてこれが正しかったかどうか、複雑な気持ちになっています。

9月矢岳の家の記事(ホテル化)_R.JPG


【読売新聞(西部本社)9月13日 社会面】

https://readyfor.jp/projects/crh1
https://www.axismag.jp/posts/2019/07/139084.html

荒れ果てていた駅長官舎(直前までは地域の公民館)で毎日掃除ををし、障子を張り替え、天井裏に上って数センチにもなるほこりを一人で取り除き、屋根を葺き替え、しっくい壁を全部塗り直し浄化槽を設置したことなどが思い出されます。第3子と第4子はここの和室での自宅出産でした、林間学校を始めたのもこの場所からスタートしています。そして苦労して復元図を起こし、人吉市で初めて「国の有形登録文化財」に申請し、文化審議会から認可が下りました。記事では簡単に文化財に触れていますが、現実は大変な思いをしたものです。
いまだに、登録文化財になった御母屋の改修費や、釘を1本も使わない伝統建築で建てた「離れ」の銀行ローンを払い続けています。

一方で1泊8万円で宿泊する人たちが利用するのか、と思うと、何とも言えない気持ちが込み上げてきます。

以上、自分自身が関わった事例について紹介しましたが、共通するのは税金を使っていることと、利便性や経済性が優先され、文化性が見えにくいところです。

リノベーションで何を残したいのか!取り組みの第一歩、目的に何を据えるのか。旅館でいえば、旅人の癒しのために大きなものを失くしているように感じます。
矢岳の家の玄関の上りがまちに立っていた障子や110年前の縁側の障子がなくなっていたことは、非常に残念です。娘を嫁に出すときは、相手の家風を良く調べないといかんなぁ、と感じています。
posted by 塾長 at 05:45| 教育・子育て